2017/03/24
上海にて
上海に来て、毎日ワクワクし、楽しく過ごしている。
この街はエネルギーに満ちている。エネルギーに溢れた人びとに出会うことができる。
昨夜出会えた二人の中国人を通して、僕ら同世代の日本人、日本の社会について思うことがあったので書き残してみることにした。
一人は、英語が流暢で、自分の人生のミッションについて語れる志の高い若者。
彼らは凄まじい競争の中に置かれ、世界でニーズのある能力を必死で習得し、前進するモメンタムを自然と備えている。中長期的に見れば、人の力が、その人の属する産業、国の力であろうことを思うと、底力のある国だなと感じる。
日中を比べると、まだ多くの分野で、資本、ノウハウの蓄積という差は大きいだろう。例えば、建築設計というサービス産業を見ても、ノウハウ、技術の差は確かにある。
ただ、全般的に日本のもの(製品・サービス・文化・人)が世界で稼げるほどに戦えているかというと心許ない。現代日本人が必要な経済規模を維持するには、多くの分野で、各々世界一でないと意味がない競争において、私は、あるいは私の会社は世界一のことをやっているだろうか。また、例えば、若者にとって、替えの効かない日本製品は僅かで、実際に日本の若者が持っている日本製品は数えられるほどになり、世界に出ればほぼ見当たらなくなっている。そうなると、名は知られているが、競争力のない会社が苦しみ、日本の労働者の給料が低くなっている現在の状況は当然である。
過去の遺産を食い潰すではなく、次の産業や文化、社会を作っていく、起業家精神を持つ人を応援したいと心から思った。Stay hungry。
もう一人は、日中の工芸に携わる朱さん。
日本の産業界では、第一次から第三次まで、多くの外国籍の人に働いてもらっている。訳の分からない日本人とより、話の分かる外国人とのほうが、話していてよっぽど楽しいし、友達になれる。理想論でなく、実感覚として、文化や好きなものに国境はないと感じる。
どれだけの有能な労働者をその社会が抱えているかが大切かと考えると、単純に生産労働人口が減るのは、同じ労働者としても、消費者としても致命的である。であれば、外国人労働者が働きやすく、暮らしやすい環境を、個々人の人間関係においても、社会制度としても作らないといけない。彼らは、差別や不当な待遇を受ける機会が多く、社会制度上の不便や不利益があるだろうから、それは日本人が積極的に是正しなければならない。
移民や永住という形で社会に包摂し、どうしたら全てを受け入れられるかは、私たちの今考えなければならない課題であろう。
初めて中国本土に来て、これだけ考えさせられ、エネルギーをもらうと、元気をもらうために定期的に来たいと思ったほどだ。
確かに、中国は衛生面やマナーが多少悪いところもあるが、それは文化の違い、経済発展度の差として許容範囲である。むしろ、治安がいいので全く問題なく、マイナス面を相殺して余りあるほど、停滞した雰囲気が漂う社会にいるより、不平不満を言う人と一緒にいるより、よっぽど得られるものが多い。
外国から見てなおさら思うのは、日本は保守的になっていないだろうか。
日本の大都市は、世界で最も先進的な都市の一つとなり、経済は低成長という状況だからこそ、守り過ぎていないかと積極的に見直してみるべきだと思う。
守破離を繰り返して、文化は時代とともに変化していく。長く重い伝統を土台として、出来るだけ高い所まで登り、次へ踏み出さなければ、現状維持は衰退である。
もちろん、今現在、圧倒的な力を持った分野があるのは承知の通りである。シルクロードの吹き溜まりである日本では、中国大陸で失われた工芸の技術が残り、更に高度に発展している。漫画、アニメ、J-POPなどのポップカルチャー、テレビ番組などの娯楽や、美容、食、スポーツなどの嗜好品は、日本のものが広く享受されている。ファッション、デザイン、建築も憧れの対象である。ただ、それらの分野で、どれだけの数、あるいは輝く才能が、今の高いレベルを土台として、次へ向かっているだろうか。
日本は経済指標の上では、もうトップレベルにない。ただ、それでも豊かな社会だと思う。それは、衣食住は最低限何とかなって、文化、工芸、スポーツに打ち込めるからで、お金にならないかもしれない分野で世界を目指す人にとっては、何よりも幸せな環境だろう。
こんな幸せな環境がまだあるからこそ、出来るだけ多くの人に世界トップレベルを目指してほしいと思う。多くの分野で素晴らしいものがあると、同じようにこの世界で頑張る仲間としても、よきものを享受する個人としても、死ぬまでこの社会で楽しみがあるから。
長々と書いたが、頑張っている人たちへの、ただのエールとして結びたい。